私は脳外科で8年間勤めていますが、同性の患者様に聞かれることがあります。
「激しい運動は控えるようにと言われたけど、セックスは激しい運動になるの?」
「腹上死って言うけど、エッチは心臓への負担が大きいから?」
「今度の外出でセックスして大丈夫かな?」
運動負荷量や血圧コントロールの指示は医師がだすもので、看護師やリハビリ職では指示は出せない為、最終的には医師への確認が必要です。しかし、患者様は「先生に聞くのは恥ずかしい」「聞くほどでもないけど、気になるから…」と言われる方が多いです。
医療職として運動の負荷量を把握し、なぜ医師に確認をした方が良いのか伝えられる知識はあっても良いと思います。
性行為も生活の一部でパートナーとの大切な時間の1つです。 安全に大切な時間を過ごして貰うために調べた性行為の運動負荷量、その他に腹上死の実態、負荷の少ない姿位についてまとめました。

診断や運動の負荷量は医師の判断が必要です。
疾患・既往のある方はここの情報だけでなく必ず医師に確認して下さい。
性行為の運動負荷量はどの程度なのか
運動の負荷量を表す言葉に「METs(メッツ)」というものがあります。
性行為はMETs“5”と言われており荷物を持って3階まで上るのと同等の運動負荷と考えられています。
性行為での血圧や脈拍の変化
心電計と自動血圧計を用いて、性行為中の血圧の変動を調べた研究では、
心拍数は安静時平均60/分から挿入時92/分、オルガスム時には114/分までに上昇し2分後には69/分へと急激に減少する(図1)。
収縮期血圧は安静時平均112mmHgから挿入時148mmHg 、オルガスム時には168 mmHgまで上昇し2分後には118mmHgへと急激に減少する(図2)。
Nemecらの研究より


なぜ医師の確認が必要なのか
医療職でない方からすると、収縮期血圧が50変動すると言われてもあまりピンと来ないと思います。
私達はリハビリを行う際、患者様が安全に運動が行えるかどうかの目安としてアンダーソン・土肥の基準というものを使っています。
基準はいくつかありますが、そのうちの1つの
リハビリを中止する基準は、
『運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇した場合』
と、なっています。あくまでも目安ですが、それぐらいの負荷量が性行為ではかかっていると言う事です。入院期間中はやはり医師に確認をとった方が安全です。

血圧が変動することで、停滞していた血流から血栓(血の塊)ができ、血圧が急に上がった押し出されて詰まってしまうこともあります。急に圧が加わることで血管が切れてしまう場合もあります。現在の血管の状態や薬などでの治療経過も含めて医師に確認して下さい。
腹上死の実態と要因まとめ
ドラマや映画で性交中に男性が死亡するという話はいくつかあり、インパクトの強さからか妙に記憶に残り、さらには腹上死と言う言葉も生まれています。しかし、実際はどうなのでしょうか?
性交死の割合
行政解剖で死因が明らかになった5559例の突然死のうち、性交死は34例で全体の約0.6%だったそうです。その内、心臓死は20例、脳出血は14例。さらに心臓死は性交中ではなく、数時間後の就寝中に起こることが多いと報告されていました。ドラマや映画の世界はやや盛っておりフィクションに近いようです。
性交死のリスクになる要因とは
性交死した34例の内、パートナーが婚外者(愛人)であった割合は27例で79%であったと報告しています。発生場所は自宅外の旅館であったのは23例、飲酒を伴っていたのが11例でした。このことから、精神的興奮が性交死のリスクに繋がっていると言われています。この他にも年齢差がある、過食後、不慣れなパートナーなどもリスクに上がっていました。
【危険な性交】 ・不慣れで刺激的な環境やパートナー ・飲酒 ・過食後
負荷の少ない姿位
心拍数や血圧の変動は姿位別で有意な差はなく、心肺機能への負荷が軽減する特定の姿位は無いようです。しかし、男性への性器に掛る負担を考慮すると“バック”が良いそうです。正常位では女性の体重がかかり陰茎折症(勃起した時に負荷がかかり海綿体などの組織が損傷する。)のリスクが高くなるとの報告がありました。
まとめ
- 性交では血圧、脈拍共に50以上急激に変動する為、治療中や持病のある方は医師への確認が必要。
- 身体的負荷だけでなく精神的興奮による心肺機能への負荷にも考慮する必要がある。
- ドラマや映画の腹上死はやや盛られている。
- 男性器への負荷を減らす姿位は“バック”。


人には聞きにくい?けど、大切な内容だと思ったのでまとめました。
この他にも医療に関する文献をまとめた記事もありますので、ゆっくりしていって下さい。